2013年01月14日

W杯3連覇への道・最終回【ついに、3連覇達成!】

取材・文/長谷川晶一、写真/報知新聞社
http://www.facebook.com/madonnajapan.hikari

六角好守

日本のマウンドには、ここまで3試合に登板して2勝1セーブと抜群の安定感を誇っている磯崎由加里(尚美学園大学)、アメリカの先発はジェニファー・ハンターが登板。先発の磯崎は、前日と同様スローカーブを多投するものの緊張のためなのか、それとも疲労のせいか、何度もピンチを迎える。

2回表・二死満塁の場面。ここでベンチから新谷博監督(元西武など)がマウンドへ駆け寄った。磯崎はこの回だけで二つの死球を与えていた。

(やばい、代えられるのかな?)

磯崎がそんなことを考えていると、新谷は短く言った。

「打ち取る気がないならやめてくれ」

それが、新谷の第一声だった。この場面を新谷は振り返る。

「ピッチャーの持つ《弱気》というのは、“ストライクが取れない”という怖さから生まれるんです。ピッチャーは誰でもフォアボールが怖い。だからストライクゾーンに投げて、そして打たれる。そうなると、相手バッターではなくストライクゾーンと戦い始めることになる。打たれてもいいんです。でも、“バッターに負けたくない”という闘志がなくなったのなら、僕はもう投げさせません。あの場面でマウンドに上がったのは、“お前は何のためにマウンドにいるの?”ということをもう一度、磯崎に思い出させるためでした」

新谷監督による激励が奏功し、この場面は見事にアメリカの2番打者を三振に切って取った。3番に入った「世界一の強打者」タマラ・ホルムズに打順が回れば、大量失点の可能性があっただけに、この場面を無事に切り抜けられたのは大きかった。

試合が動いたのは3回裏・日本の攻撃。二死走者なしから2番・六角彩子(侍)が振り逃げで出塁。続く三浦伊織(京都アストドリームス)、西朝美(アサヒトラスト)の連打で満塁にすると、ここで5番・川端友紀(京都アストドリームス)の死球で先制。さらに、6番・金由起子(ホーネッツ・レディース)がライト前に2点タイムリーを放って、日本は3点を奪い取る。

金タイムリー

日本の先発・磯崎は自軍の攻撃を見ることなく、ひたすらブルペンでピッチング練習を続けている。「投げれば投げるほど調子がよくなる」という磯崎は、試合途中でもしばしばブルペンに入る。このときもまたブルペンで本番さながらの投球を続けていた。

その後も磯崎の老獪な投球は続いた。

相変わらず走者を出すものの、なかなか得点に結びつかないアメリカ打線。先制した直後の4回表・アメリカの先頭打者にヒットを許したが、すぐにセカンドゴロに打ち取りダブルプレー。5回表も一死からヒットを打たれたものの、後続を断った。特にこの回は「世界一の大砲」として名高い、タマラ・ホルムズを見事に空振り三振に仕留めた。これは、タマラにとって今大会最初にして唯一の三振だった。

「まさに、狙い通り。思い描いていた通りの三振です」

キャッチャーの西が笑えば、磯崎も笑顔で振り返る。

「あの三振は西さんとの思いが完全に一致した三振でした」

盤石の信頼関係が築かれていた日本バッテリーの安定感は抜群だった。また、この日もサードを任された六角彩子の守備は鉄壁だった。どんなに強い当たりでも、どんなに難しいバウンドでも、六角は完璧なプレーでことごとくアウトにしていた。埼玉栄高校の同級生である磯崎のために、六角は鉄壁の守備で磯崎をサポートした。以前、磯崎が行っていたことがある。

「マウンドからサードの六角の姿が見える。それだけで安心できるんです」

6回裏・日本の攻撃が終わり、いよいよ最終回が始まる。マウンドに向かう際に磯崎は「最終回も頑張りましょう」と西に声をかけようとしたが、西が見当たらない。不思議に思っていると、西がダッグアウト裏から現れた。西は笑顔で磯崎に声をかける。

「よし、最終回! 気合い入れていこう!」

実は5回裏・日本の攻撃。ショートゴロを放った西は、一塁にヘッドスライディングをした際に、古傷の左ひざを傷めていた。平然とダッグアウトに戻ったものの、重大な異変が起きていることはすぐにわかった。左ヒザ靱帯を断裂したまま、だましだまし野球を続けてきた西でも、今までにない痛みを感じていたからだった。

西ヘッドスライディング

6回表・アメリカを三者凡退に抑えると、西はすぐにベンチ裏に引っ込んだ。トレーナーには「やばいかも」と短く告げた。ナインを動揺させないためにも、アイシングを施す姿は見られたくなかった。西の胸の内にあったのはただ一つの想いだった。

(この大会でぶっ壊れてもいい。あと1イニングだけ、あと1イニングだけでいいから、何とかもってほしい……)

悲壮な決意を抱いている西の状態を知らない磯崎が最終回のマウンドに上がった。しかし、この回も磯崎はピンチを招いた。プレッシャーのかかる準決勝と決勝に連日先発。前日は7回完投、そしてこの日も6回を無失点に抑えて7回に入っていた。重圧はさらに増し、疲労は極みに達していた。

先頭打者にヒットを許したものの、西がランナーを刺殺。何とかツーアウトまでこぎつけた。西陽の射しこむテラス・フィールドには3塁側日本スタンドから「あと一人」コールが響き渡る。しかし、「このコールを聞いて、勝ちを意識して力んだ」という磯崎は、ここから2番にファースト内野安打、3番にフォアボールを与えて、二死1、2塁としてしまう。この場面で、初回に続き新谷監督がマウンドへと上がった。

(あぁ、今度こそ本当に代えられるんだ……。代わりたくないな……)

ツーアウトになり、ブルペンからすべての投手が引き揚げていたものの、ヒットを打たれるとすぐに中島梨紗(侍)、そして里綾実(福知山成美高コーチ)が再びブルペンへと向かっていた。磯崎は覚悟を決めた。しかし、新谷の言葉は意外なものだった。

「お前ら、一体、何がしたいんだ?」

それが、このときの新谷の第一声だった。磯崎も、西も新谷の教え子だった。

「オレはお前たちに、フォアボールの出し方なんか教えてないぞ」

それは、ぶっきらぼうな性格で「いつも誤解されてばかりいる」と嘆く、新谷なりの精一杯の優しさだった。

「あと一人だ。弱気になるな、思い切っていけ!」

この間、わずか1分足らず。それでも、新谷の言葉によってマウンド上ですべてのプレッシャーを背負っていた磯崎の気持ちは大きくやわらいだ。

――そして。

アメリカの2番・エベレット・ケイトリンの打球は力なくセカンドの中野菜摘(尚美学園大学)の前に転がった。中野は無難にさばき、ファーストの金由起子へと転送。その瞬間、マドンナ・ジャパンの大会三連覇が決まった。

優勝の瞬間

会場となったテラス・フィールドはしばし歓喜の舞台へと変わる。新谷監督から始まり、清水稔コーチ(元三菱重工神戸監督)、志村亜貴子キャプテン(アサヒトラスト)の胴上げが続く。選手たちの瞳は潤んでいる。緊張の糸がぷつりと切れたのか、それまでは平然とプレーをしていたキャッチャーの西は、負傷した左足を引きずりながら涙をぬぐっている。

結局、連投となった磯崎は、アメリカに得点を許さずに7回を一人で投げ抜いた。今大会3勝目、通算防御率は0・33、文句のない投球で最多勝とベストナイン(先発投手)、そして大会MVPに輝いた。大会翌月には35歳になるベテランの金由起子は打点王を獲得

さらにベストナインには、救援投手部門では里綾実が、代表初選出ながら球際に強い攻守で何度もピンチの場面を救った出口彩香(尚美学園大学)はショート、プロから参加した三浦伊織は堅実な守備で外野のベストナインに輝いていた。そして、再三にわたって神がかり的な攻守を連発した六角彩子は最優秀守備選手賞を獲得した。

日本中の注目が同時期に行われていたロンドン・オリンピックに向けられている中、異国の地で懸命に戦った20名のマドンナ・ジャパンたち。世界の舞台で、その強さと華麗さ、凛々しさを存分に見せつけた。目指し続けた「世界最強」の称号は、今、確かに彼女たちの手の中にあった――。(了・文中敬称略)

新谷監督胴上げ


マドンナジャパン 光のつかみ方――世界最強野球女子
マドンナジャパン 光のつかみ方――世界最強野球女子


shozf5 at 10:30│ 今日も元気に女子野球! 
PROFILE
SHOICHI HASEGAWA 
1970年5月13日・東京生まれ。
ノンフィクション・ライター
日々、旅をして、人に出会い、
話を聞き、それを文章にする。
そんな日々の雑感です。
長文になると思います。

ちなみに、上の写真は、
モハメド・アリ@北朝鮮です!
(07年3月1日付参照のこと・笑)
shozf5@gmail.com


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