2012年12月30日

W杯3連覇への道・その10【第3戦、新谷博の名采配】

取材・文/長谷川晶一

全員集合

カナダ・エドモントン、現地時間13日11時。第5回女子野球ワールドカップ、一次予選第3戦・日本対キューバが行われた。前日のアメリカ戦では、2対5というスコア以上の屈辱的な敗戦を喫しただけに、ここは気分一新を期待したいところ。

この日、前夜の敗戦を受けて、新谷博監督(元西武など)は、早々に動いた。試合前に、新谷は選手を集めて「緊急ミーティング」を行った。それは「謝罪」から始まるものだった。

試合前ミーティング

「昨日のジャッジで、みんなを迷わせてすまなかった。これからはベンチから指示を出すから、もう何も迷わなくていい。フォアボールの後の初球など、“ここは見逃すな”というときには、積極的に打ってほしいし、“ここは粘ってくれ”というときには、何とかファールで頑張ってくれ。なるべく打席で迷わないように、ベンチから指示を出す。スッキリと自信を持って打席に立てるようにするから安心してほしい」

前夜のアンパイアのジャッジに対して選手たちは疑心暗鬼になっていた。このままの状態で大会を進めていくのは、あまりにも危険だった。僕自身も、「早急に対策を講じる必要がある」とは思っていたが、新谷監督は絶妙なタイミングで的確な指示を出した。

磯崎・ブルペン

先発マウンドを託されたのは、尚美学園大の磯崎由加里。カーブ、シュート、スライダーを操る磯崎投手は、埼玉栄高校時代から注目の投手で、スローカーブで打者を翻弄する巧みな投球術が持ち味。前回大会でも、日本三本柱の一角を占めていた。

田中
また、この日はプロから代表入りした田中幸夏(兵庫スイングスマイリーズ)がスタメン起用され、今大会初めての試合出場を果たす。田中は神村学園高校時代の04年、このエドモントンで開催された第1回大会出場経験を持っていた。このときは中心選手として大活躍し、日本の準優勝に大きく貢献した。

「8年前と比べて、球場がきれいになったかな?久しぶりのジャパンなので、頑張ります!」

この日の、スターティングメンバーは、

1番・志村亜貴子(9・アサヒトラスト)
2番・六角彩子(5・侍)
3番・三浦伊織(8・京都アストドリームス)
4番・西朝美(2・アサヒトラスト)
5番・川端友紀(DH・京都アストドリームス)
6番・金由起子(3・ホーネッツ・レディース)
7番・出口彩香(6・尚美学園大学)
8番・田中幸夏(4・兵庫スイングスマイリーズ)
9番・萱野未久(7・シリウス)
P・磯崎由加里(尚美学園大学)


この日、前日までの2試合から打線を変更する。過去ずっと先頭打者を任されてきた志村が1番に、ポイントゲッターとして期待される三浦を3番に起用。そして、この用兵は見事に的中する。

1回裏の日本の攻撃で、1番・志村が四球で出塁すると、相手チームの守備の乱れに乗じて、無死二、三塁として、3番・三浦が見事にセンター前に2点タイムリーヒット。前日の嫌な雰囲気を一瞬で吹き飛ばした。

三浦・大山
投げては、磯崎投手が緩急自在のピッチングで、キューバ打線を翻弄。決して速球派でもないのに、面白いように打者はタイミングを狂わされ、空振りの山を築く。4回表は三者三振という、実に小気味いい投球を披露した。この試合だけに限らず、磯崎の安定感はいつも抜群だった。あるとき、新谷監督がこんなことを言っていたことがある。

「長谷川さん、イソが打たれたり、ピンチを背負っているイメージってありますか?」

改めて、そう問われてみれば「ありません」としか、答えようがない。常にピッチャー有利のカウントでピンチらしいピンチを見た記憶がない。ミート技術に優れた日本打線 でさえそうなのだから、大振りが目立つ外国打線ではなおさらだ。この試合によって、改めて新谷監督の胸の内には「磯崎は使える」という想いが芽生えたことだろう。

2回表の守備で、レフトの萱野が、打球を左目に当て途中退場というアクシデントもあったが、日本チームは浮き足立つことなく落ち着いていた。(検査の結果、萱野選手に異常はなかった)。結局試合は、終始日本ペースで10対0、5回コールド勝利。文句のない、戦いっぷりだった。

……しかし、マドンナジャパンを率いる新谷博監督は、この勝利を手放しで喜んではいない。

試合終了直後、選手たちをレフト付近に集め、厳しい口調で、緊急ミーティングを始めた。

試合直後ミーティング
これまで、新谷監督に何度も取材を行ってきたが、その口調は今までにない《激しさ》に彩られていた。

「ここにきて、みんなプレーが軽い、オレたちがやっているのは、“明日負けたら、終わり”の戦い。サインミスなんかしてる場合じゃないだろ!ワンプレーごとにいちいち喜ぶな。日本に帰ってから喜べ!」

これも珍しいことだが、このとき新谷監督は、実名を挙げて、名指しで数名の選手を批判する。

「……普段はあまり名前を出さないけど、川端、三浦! オレたちは《今日、負けたら終わり》の試合、やってんだよ。バントミスしました。ごめんなさい。練習して、明日できればいいっていう話じゃないんだ。……そして金。この期に及んでサインミスなんかしている場合じゃないだろ」

決して諭すような口調ではない。新谷の語気は強かった。
選手間に緊張が走る。本人の言う通り、選手を名指しで批判するのは新谷にしては異例のことだった。名指しされた川端、三浦、そして金の表情が、一段と引き締まる。これからしばらくして、監督に「激」の真意を聞いた。

「選手たちに“今のままでは勝てない”と気づいてほしいんです。以前から“日本代表ってそんなに甘いものじゃない”って、口を酸っぱくして言ってきたけど、それが薄れてきたようだから」

そして、最後にこう口にする。

「結局、僕自身が選手たちに遠慮していたのかもしれない。でも、昨日アメリカに負けたことで、僕自身が変われた。代表の重みをもう一度きちんと伝えたかったんです。アメリカに負けたことでそう思えたんです。選手たちに改めて“今のままじゃ勝てないぞ”っていうことに気がついてほしかった。送りバントが成功してガッツポーズが自然と出るような、そんなチームにしたいんです。ひょっとすると、僕の中で選手たちに対する遠慮があったのかもしれない。でも、アメリカに負けたことで、僕自身が吹っ切れました。あの敗戦で、僕自身が“このままじゃ勝てない”と気づいたのかもしれない」

前夜の敗戦を糧にして、また一歩踏み出したマドンナジャパン。後に振り返ってみたときに、間違いなくターニングポイントとなる一瞬。そんな瞬間が、この日の試合前と試合後の二度の緊急ミーティングだったと言えるだろう。この二度のミーティングこそ、大会3連覇を実現した、新谷博の「名采配」だった。

マドンナジャパン 光のつかみ方――世界最強野球女子
マドンナジャパン 光のつかみ方――世界最強野球女子


shozf5 at 18:19│ 今日も元気に女子野球! 
PROFILE
SHOICHI HASEGAWA 
1970年5月13日・東京生まれ。
ノンフィクション・ライター
日々、旅をして、人に出会い、
話を聞き、それを文章にする。
そんな日々の雑感です。
長文になると思います。

ちなみに、上の写真は、
モハメド・アリ@北朝鮮です!
(07年3月1日付参照のこと・笑)
shozf5@gmail.com


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