2008年03月20日

Where is the GOD? 〜きれいな波の立つところ〜


夜中、原稿を書いていると懐かしい人から電話があった。
八丈島在住の、日本初のサーファーと呼ばれている
坂本昇氏だった。

僕はおよそ4年前、八丈島に行き、
彼に話を聞いて、彼の物語を書いた。
そろそろ60歳になるころだろう。

坂本氏の家は、実に不思議な空間だった。
海を見下ろす静かな部屋で、
彼は双眼鏡片手に波の様子を見ていた。

そして、いい波が来ると同時に彼は海へと消えていく……。
彼の話はまるで、仏法説話のようだった。
静かな空間の中で、禅問答のようなやり取りが続いた。

そんな彼の物語を久しぶりに読んでみた。
自分でも何だかとても懐かしい気分になった……。。


0407

Where is the GOD?
きれいな波の立つところ


TEXT:SHOICHI HASEGAWA

不思議な空間だった。
曇天の空の下、小雨が蕭蕭と静かに窓を伝っている。
窓の外には海が広がる。カモメが音もなく二羽、飛んでいる。
庭先の植え込みに生えているハイビスカスは鮮やかな「赤」をたたえ、
その存在を精一杯、自己主張している。

背後には間断なく流れる滝の打ちつける断崖絶壁。
滝の作り出すミストであたりには霞がかっている。
ここは八丈島。

海に向かってしつらえられた籐椅子に身をゆだね、
双眼鏡で静かな海を眺めている、仙人の如きたたずまいの男。
坂本昇が、そこにいた。

                ※

波乗りとヨーガ。
坂本を語るに欠かせないキーワード。
貧血気味で病弱だった少年が、療養のために
環境のいい養護学園に行き、
海とともに暮らし始めたのが小四のとき。
その後、湘南に移り、中一から波乗りを始めた。

そんな少年も、現在ではすでに齢54を数えた。
日本初代のプロサーファーであることや
伝説のサーフショップ『パイプラインサーフボード』の
オーナーとして活動したのも、すでに昔の話となった。
波乗りとヨーガに専念するため、八丈島に移り住んで20年になる。

「人生に無駄な時間は何もない。あっという間だ、
 本当にあっという間だよ……」

坂本は静かに何度も繰り返す。

                ※

サーフィンをしていて、何度か恍惚の瞬間を迎えたことがある。
低気圧が過ぎた朝。太陽が昇る直前、
海面が磨き上げたガラスの表面のようになる一瞬。

(鏡の中にいるのか?)

空は黒から青、そして、朱色からオレンジに変化する。
美しい瞬間。幻想の世界。ただ、そこでスーッとボードに乗るだけ。
それを何度も繰り返す。そんな瞬間を味わいたくて、
今まで波とともに生きてきた。

「陶酔だね。本当の純粋。すべてが満たされちゃう。
 自分の存在すら消えちゃう。宇宙そのものになっちゃうんだ」

30代を迎え、体力の衰えを感じ始めたころヨーガを始めた。
ヨーガを始めて、その気持ちよさにすぐに魅了された。
「ヨーガの魅力は?」と問うと、

「優しいっていうのかな、とにかく慈悲深いんだよ。
 オレたちは何のために生きるのか。何が最高のものなのか?
 物質的な世界で感じる限界というものが
 ヨーガの世界にはないんだよ。
 ヨーガのよさが身体に沁みてきたんだよな。
 その沁み方はハンパじゃない、類がないんだ」

さらに、坂本は言う。

「ヨーガを始めてますます、波乗りが気持ちよくなってきたんだ。
 タバコを吸って、暴飲暴食して、
 金勘定に追われているときにはわからなかったことが、
 ヨーガを始めてから、より深く理解でき、
 より気持ちよくなってきたんだ」

そして、

「波乗りもヨーガ本当に気持ちよくて、時間が短く感じるんだ。
 本当に気持ちよくなるとあっという間なんだ。
 これからの人生もますます早く過ぎるんだろうね。
 波乗りとヨーガ。どちらが欠けてもダメなんだ」

現在は、八丈島の神々しい大自然の中、
その時々に自分が欲することを、自然にやっている。
それが坂本にとっての、波乗りでありヨーガだ。

                ※

坂本の話は多岐に及んだ。

たとえば、脇田貴之。
世界に名高いプロサーファーであり、
坂本のヨーガの愛弟子でもある。
坂本は、「100年に一人出るか出ないかの
チューブライダー」だと脇田を評する。

現在もノースショアアタックを続けるために
坂本は脇田とともにハワイの海に入る。

「彼と一緒に海に入ると、いい気が流れるね。
 お互いにいい気を持っているというか、【和気】があるね。
 いい時間、素晴らしい時間が流れるんだよね」

たとえば、ノニ。
タヒチやインド、中国などで、古代より健康促進のために
愛用されてきたポリネシアン産の「ハーブの王様」。
その飲み方はもちろん、効用、そして、ノニを使っての
歯の磨き方まで全身を使って説明する。

たとえば、仏陀。
坂本の愛する仏陀の言葉が書かれた冊子を手渡される。
そこには、こうある。

「健康を最高の利益
 満足を最上の宝
 信頼を最高の友
 寂静を最上の楽しみとしている」


どの話題になっても、そのすべてにおいて坂本は、
身振り手振りを交えて、それこそ全身全霊で言葉を紡いだ。
その熱気は、辺りの静寂さと比べ、実に対照的だった。

                ※

そして、坂本との会話はしばしば禅問答の如き様相を呈した。

「欲から離れることを求めているうちは、離欲はかなわない」

「宇宙そのものになる瞬間がある。それは体をひとつにする
 【一体】ではなくて、溶け合う感覚、【融合】なんだよ」

「海が呼ぶ、ヨーガが呼ぶ。だから、宇宙の波動からは離れられない」

それらの仏法説話のような話を聞きながら、私は思った。

波乗りとヨーガを繰り返す毎日。
それは僧侶が朝から晩まで行を繰り返す日常と
変わらないものなのかもしれない、と。

「まるで修行僧のような日常ですね」

そう聞くと、坂本は言った。

「まだまだ、オレには、欲もあるし、怒りもあるけれども、
 僧の域にはあるのかもしれないね。
 だって、こんなところに20年以上もいるんだから(笑)。
 もしかしたら、ここがサーファーとしての
 テンプル(寺)なのかもしれないね」

それまでの熱のこもった話しぶりから
一転して、静かな口調に変化した。

「きれいな波が立つところにはきれいな気が流れる。
 マイナスイオンじゃないけど、
 波のブレイクできれいな気が起きるんだよ。
 わかる人間にしかわからないかもしれないけどね。
 でも、若いヤツらを目覚めさせたい。 波乗りもヨーガも、
 こんなに気持ちいいんだってことを知ってほしいんだ」

その話し方は、まるで何かを悟った覚者のようだった。

「やっぱり、坂本さんは神様みたいだ」

私が言うと、【神様】はきっぱりと言う。

「あなただって神様なんだよ」

「どうしてですか?」

「人は生まれながらに神であり、神として死んでいくんだから……」

いつの間にか雨はやんでいる。
カモメは、あいかわらず曇天の空を静かに飛んでいた。



坂本昇
Noboru Sakamoto Born 1949

1949年、東京都葛飾区生まれ。貧血気味で身体が弱く、小学校4年生のとき、療養のため千葉県の保田へ。そこで海に出会う。一年後、湘南に引越し、波乗りをしながら10代を過ごす。23才で、その後伝説となるサーフショップ『パイプラインサーフボード』をオープン。また、プロサーファーとして、日本のサーフィン界を牽引するも、34才のときに突然、八丈島に転居。以来、波乗りとヨーガに精進する日々を送る。



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PROFILE
SHOICHI HASEGAWA 
1970年5月13日・東京生まれ。
ノンフィクション・ライター
日々、旅をして、人に出会い、
話を聞き、それを文章にする。
そんな日々の雑感です。
長文になると思います。

ちなみに、上の写真は、
モハメド・アリ@北朝鮮です!
(07年3月1日付参照のこと・笑)
shozf5@gmail.com


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