2007年07月13日

粋 第9回 〜都電荒川線でぶらり旅をする!!〜


「続ける」ということは、やはり大切なことなのだろう。
最近、『粋』の擁護派の声が、耳に入るようになった(笑)。

ということで、まだまだ続けたい。
目標は7月中に、最終回までの全15回をアップすること。

今回は、都電荒川線でのひとり旅。

この回は、取材したことすらすっかり忘れていた。

ここで書かれている、酒での醜態。
今でも、ハッキリ覚えているぐらい、
本当に情けない失態だった……。

これ以来、こんな恥ずかしいことは
していない(ハズ……)けれど、
本当に情けない思いで書いた原稿だった。

そのせいか、連載中、一番勢いがない
ような気がする……。

さて、本文中に登場する、ねっとり目ヤニのじいさんは、
今も元気でいるのだろうか……?




01.07




第9回

ゆるやかな時の流れを静かに楽しむ

都電荒川線でぶらり旅をする!!

ちんちん電車。その懐かしい響き。
東京最後の都電、荒川線。早稲田から三ノ輪橋まで。
総走行距離12.2キロ、所要時間50分弱の小さな電車。
通勤地獄の対極にある、のほほんとした昼下がりの都電。
ただ、ビールと少しの時間だけあればできる気ままな旅。
五月の風を受け、陽光を浴び、オレはぶらり旅に出た。
ゆっくりと、気ままに悠久の時の流れに身を任せる。
ストレス過多の現在に残ったオアシス。
はたして、都電荒川線に粋はあるのか?



土地土地の空気が最高のつまみ、と改めて悟る

酒は呑んでも呑まれるな。
昔からの格言。しかし、オレは呑まれた。
久々の粗相をしでかした。
財布を、メガネを、カギを、免許証を、
靴を片方なくした。被害総額30万円。

そして最大のダメージ、「自分は酒には呑まれない」、
そんな自信をもなくした。
だから、酒を断ち、毎日、反省の日々を過ごしている。

そんな謹慎処分の中でトライする今回のクエストは
「都電荒川線ぶらり旅」だ。

と、原稿を書き始めようとしたところ、
なかなか筆が進まない。
丸三日シラフで荒川線に乗りつづけ、取材は万全。
書く材料もたくさんある。でも、なかなか書けない。

体調も悪く、鬱気味で何度書いても
湿っぽい文章ばかり。「死とは何か?」なんて
この雑誌には似合わないだろ?

で、今回は休載ということにしてもらおうと、
H編集長に泣きを入れた。

「ちょっと体調が悪くて今月は書けないんですけど……」

弱々しげな声を出して人の同情を
ひくのはオレの得意技だ。

しかし、編集長の答えは、
「呑みが足りないんだろ?」

というシンプルなもの。で、気がついた。
そうだ、確かに謹慎生活がつづくあまり、
オレは酒の感覚、酔いの感覚を忘れていた。

H編集長からは、
「パソコンを持って、各駅で呑んで、荒川線車内で書け!」
という新テーマももらった。

こうしてオレの三日もの長きに渡る断酒生活が終わった。

今回の原稿は正真正銘100%酔っ払って書く!

多少の誤字脱字は当編集部の
優秀な校正の方々にお任せする。
がぜん、ハイ、躁になってきた! 

そして、今、オレは町屋にいる。

午後五時だというのに、20人ほど入る店内は超満員。
しかたなくオレたち3人は店の外に並ぶ。
5月の夕暮れどきはまだ明るく、日が沈むまで、
あと1時間以上はありそうだ。

ようやく店内に通される。

1日中荒川線に揺られていた心地よい疲労の中、
地元在住の酒呑みカメラマンと粋な
イラストレーターと一緒に生ホッピーを酌み交わす。
そして生レバー、生ハツをつまむ。
たっぷり食べて呑んでも一人2000円ほど。
店内は地元の常連ばかりでプロ野球の話を楽しげにしている。
荒川線チックなすべての雰囲気にオレは今、完全に酔っている。


なぜだか「死」が身近にありすぎた一日

鯖ァ妁ぅ〜薀Sb寥ヴ…… 
あっイカン遺憾。文字バケじゃないぞ、
酔ってるだけだ。これからは心して原稿を書く。

さて、つづいては「雑司ヶ谷」に出向き、
園内の案内図を手に、夏目漱石先生の墓参り。
「1000円札がいっぱい手に入りますよう」と
金運向上の願をかける。

ブラブラ数箇所を回りつつ
最後にたどりついたのが終点の「三ノ輪橋」駅の浄閑寺。
ここには近くにある吉原の遊女たちが
眠っている墓がある。

身寄りのないものたちが多く
「投げ込み寺」という別名もある寺だ。

墓石には「生まれては苦界 死しては浄閑寺」
と刻まれている。一畳ほどの大きな墓石をぐるりと回る。
すると側面の空気口からおびただしい数の骨壷が見えた。

寺務所で線香を買い、手を合わせた。
真新しい卒塔婆には「平成十三年四月」とある。
つい最近亡くなった人も埋葬されているのだ。

偶然だが、この日、知人の葬式があった。
喪服を着ていたオレははたから見たら、
最近亡くなった遊女の親族、
もしくは彼氏だと思われたかもしれない。

「王子駅前」駅からタクシーに乗り
東十条で葬式に出る。

その後、終点「早稲田」まで行き、ひとりで鮨をつまむ。

「お葬式ですか?」
この日起こった話をいろいろする。
不謹慎ですが、と前置きして大将がいう。
「あまり近くない方(の葬式)でよかったですね」
なぜだか知らないが、
この日は死に彩られた一日だった。
静かに静かに酔いがまわっていった。


逆ギレジイサン、きっと長生き!

今、「飛鳥山」駅の飛鳥山公園にいる。昼の二時過ぎ。
昼に呑んだ生ビールがほどよく回り始め、
陽気のせいもあって、猛烈に眠くなった。

コンビニでレジャーシートを買い、
日陰の落ち葉の上に寝転ぶ。爆睡だった。
気づくと二時間経っていた。

昼、みんなが仕事をしているときのビールと昼寝は
どうしてこんなに気持ちがいいんだろう。

寝起きでボーッとしながら公園を歩いていると
古ぼけた荒川線が展示してある。
昭和40年代に実際に走っていたものだという。

すると、
「私のようにオンボロだろ?」

老人が近づき声をかけてくる。

「86のジイサンと同じ。ボロボロさ」

余談だが、とかく年を自慢したがる老人がいる。
聞いてもいないのに「明治●年生まれの◎才」
とか言いたがる。

そんな老人には「◎才には見えないですね。
まだまだお若くて…」と言うと、ことのほか喜ぶ。

だから、そう言った。やっぱり喜んだ。
そして一方的な老人の話が始まった。

曰く「荒川線の線路は国電(現JR)よりも狭い」
とか「昔は山手線のように都内を一周していた」とか。

歯がないのでとにかくツバが飛ぶ。
右目にはネットリした緑色の大きな目ヤニがついている。
その姿は、病気の老犬を思い出させる。

そのジイサン、不吉なことを言う。

「私が死ぬ頃には都電も終わりだな」

何の根拠もなくそんなこと言うなよ、
と思いつつリアクションに困るオレ。
また「死」か、とちょっとブルーなオレ。

「そう思うだろ?」

と念を押すジイサン。

「えぇ、そうですね」

と仕方なく言うと、

「何てことを言うんだ! 私はまだまだ元気だ!」

と怒り出す。オイオイ逆ギレだよ。
否定してほしかったのね。


荒川遊園地でまったりのんびり何もない一日

「荒川遊園地前」駅で降り荒川遊園地に行く。
駅からの道すがら
「酒を飲み、寝ころんだりしないようにしましょう」
との立て看板。先日の粗相が蘇り、たちまちブルーになる。

平日のあらかわ遊園(駅名では荒川遊園地となっているが
正式名称は『あらかわ遊園』)はガラガラ。

地元の子連れヤンママの社交場と化し、
どうぶつ広場ではポニーが熱さのためにヘタっている。
隣に流れる隅田川を小さな船が通り過ぎる。

のどかなのどかな休日のような平日。
へびを首に巻いた飼育係のお姉さんが
園内を練り歩くシュールな風景。

園内では生ビールも販売している。
へびを見ながら酒を呑むのは初めての経験。
特別うまくもないが、まずくもない。ビールはビール。

誰もいない観覧車に乗り、眼下の風景を眺める。
小ぶりのジェットコースターに乗り
つかの間の刺激を味わう。

すべてが淡々と静かに流れる時間。
東京とは思えぬ自然あふれる空間。
30過ぎとは思えぬのほほんとした自分。

楽しくもなく辛くもなく切なくもなく悲しくもなく。
ひたすら時間が流れていく。
そう、今日はホントに何もない一日。

こんな時間を過ごしたのはいつ以来だろう。
人生は短い。でも、あせるな、怒るな、あわてるな。
のんびり行こうぜ。日々を生きる、って難しいことだね。

釣り堀に子どもがいる。
小学生のこの男の子、一人で釣り糸をたらしている。
学校はどうしたのだろうか?
親も友達もいないようだ。

ジャイアンツの野球帽をかぶり、
一昔前の小学生らしい格好だ。
この子すでに、二時間ほどこの場にいる。
四時間で250円の彼のぜいたくなのか?
不登校なのか? 鍵っ子なのか?

いろいろ妄想は膨らむがオレはこの子に好感をもった。
いい時間の過ごし方をしているぜ、坊主。

帰りは氷川きよしの「大井おっかけ音次郎」号に
乗り早稲田に向かう。

そして、すべての原稿が終わろうとしている今、
オレは早稲田で鮨を食い、酒を呑んでいる。
わかっちゃいるけどやめられない。
これでいいのだ。クエストはまだまだつづく。


今月のひとこと
平凡な日々反省の毎日
本文中でも書いたが、酒の粗相で反省の日々を過ごしている。今月はウェットな文章でスマン。でも、6月号「男なら酒を愛でよ」の巻頭のポエムを読んで元気づけられた。「たとえ、醜態をさらすことになろうとも、恐れることはない、ただ、呑みつづければいい」とある。いいこと言うな、と思ったら自分が書いたものだった。以上、今月の自画自賛。

雪之丞華之介●カギをなくしたのでこれを機会に絶対にピッキングされないというカギに変えた。みんなに見せびらかすものの何の反応もなく寂しい毎日。恋に恋する31才。




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PROFILE
SHOICHI HASEGAWA 
1970年5月13日・東京生まれ。
ノンフィクション・ライター
日々、旅をして、人に出会い、
話を聞き、それを文章にする。
そんな日々の雑感です。
長文になると思います。

ちなみに、上の写真は、
モハメド・アリ@北朝鮮です!
(07年3月1日付参照のこと・笑)
shozf5@gmail.com


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