2007年07月03日

粋 第6回 〜江戸前鮨をたらふく食らう!

先週、『粋』と題する、6年前のコラムを掲載した。
相変わらず、「文字が多くて読みづらい」という
ご批判ばかり頂戴している……。

でも、唯一、一人だけ「あんなのも書いてたんだね
と優しい声をかけてくれた人がいた(笑)。

「あんなのも」というフレーズに、
僕は嫌味は感じず、むしろ「」を感じた。
だから、今日も掲載する。

読みづらくて、ゴメンナサイ……。


01.04




第6回

職人の技と心をじっくりと味わう!
江戸前鮨をたらふく食らう!

「職人」。いい響きだ。
ちょっとやそっとではビクともしない不動の精神力、
鉄の意志を想起させる、そんな言葉であり、
一つの道を極めた者のみに許される称号だ。
「粋」を極めんと日々悪戦苦闘しているオレたちにとって、
遥か遠い、憧れの道だ。さまざまな世界に職人はいるが、
今回は、江戸前鮨の職人の世界に「粋」を探してみたい。
うまい鮨には理由がある。そのうまさを生み出す職人の
ゴッドハンドの秘密を探る。



漢字講座一 人に良くすると書いて「食」と読む!

3月号の「回転寿司の作法」を読んだ。じっくり読んだ。
「作法」と言っても、週に5食は回転寿司を食すオレだ。
知ってることばかりだろう、と思っていたがさにあらず。

「寿司を一口で食う女はサド」
「かにサラダやツナサラダばかり食う女はヤレル度90パーセント」

などなど、もっと若い時期に知っていれば、
確実にオレの人生も変わっていたことだろう。
こんな大事なこと、『美味しんぼ』には書いてなかった。
もしかすると海原雄山も知らないのかもしれない。
でも、海原珍山は知っているに違いない。

さて、日ごろ、回転寿司にお世話になっている読者諸君。
回転寿司の作法、粋な食べ方は3月号を見てもらうとして、
「寿司」ではなく、「鮨」の作法を極めるべく、
今回のオレは立ち上がる。

クエストのテーマは「江戸前鮨を食らう」だ。

回転寿司の気楽さも捨てがたいし、
最近の回転寿司各店の企業努力は目覚しいものがある。
しかし、大人の世界、粋の世界を極めるためには
回転しない鮨屋を避けて通ることはできまい。
上質を知る者のみが真理に近づけるのだ。

元来、無粋なオレには荷の重いテーマだが、
オマエらにはもっと荷が重いだろうから、
あえてオレが捨て石になる。
さぁ、オレのクエストの成果を踏み台に
オマエらも江戸前の粋を感じられる漢となれ!

日頃、『美味しんぼ』はもちろん、
『将太の寿司』、そして「週刊漫画ゴラク」の
『江戸前の旬』まで、読破している耳年増のこのオレだ。
知識なら負けないが、このコラムはウンチク読み物ではない。

間違っても、「タラバガニとアブラガニの違い」や
「ガリは昔はお手拭き代わりだった」
とか、ワンポイント雑学を自慢気に
とうとうと語るつもりはない。

今回、三件の江戸前鮨を訪ねた。
その三軒の職人の心意気、江戸前の心を伝えるだけだ。
どの店も、職人ならではの心意気で仕事をしていた。
うまいものは人を哲学者にする。

ホントに人生の幸せを噛み締めたり、
生きていることの意味を噛み締めながら鮨を食った。

正直言って、敷居が高い店ばかりだった。
一人でのれんをくぐるのにかなりの勇気がいった。
でも、やるんだよ、食うんだよ。

で、三軒食った。みんな職人だった。
いい仕事をしていた。それを書く。だから読め。
ぐずぐず言うな、読むな、食え!


漢字講座二 魚偏に旨いと書いて「鮨」と読む!

昔の文豪の随筆にしばしば登場する九段下の鮨屋に行った。
文久三年創業の店だ。一人で暖簾をくぐる。
こんなに緊張するのは初めてだ。
いくらかかるか不安だったので、現金で五万円持って入った。

「いらっしゃい!」
威勢のいい掛け声とともにカウンターに案内された。
店内にはすでに3組、7人の客がいた。推定平均年齢57歳。
そこに30の自分が一人カウンターに座る居心地の悪さ。
でも、いい。これも修業だ。
ビールを頼む。飲む。うまい。それだけで十分だ。

常連さんに囲まれて、一人でつまむ。
そうこうするうちに店内は満員になる。
15人ほどがめいめいに飲んでつまんでいる。

会話の内容から、隣の三人は某大手商社の副社長だとわかる。
静かにでも、楽しげに鮨をつまんでいる。
大人の飲み方だ。素直にかっこいいと思う。
オレは一人、誰と話すでもなく、黙々とつまみを食す。

二時間ほどいただろうか。何組か客の出入りがあり、
カウンターはオレを含めて三人になった。

親方が話しかけてくれた。
「雑誌関係の方ですか?」

図星だった。オレは何ひとつ「雑誌関係」の素振りを見せてはいない。
「最初からそうじゃないかな、と思っていたんですよ」
「何でわかったんですか?」
「雰囲気っていうんですか? そういう感じがしましたよ」

親方は沢庵を刻みながら話す。
「人が命をかけて打ち込んでいるものは
そういう雰囲気が出てくるものですよ。
お客さんが雑誌に命をかけてるのが伝わりましたよ」

正直、オレは雑誌に命をかけたことはない。
でも、命をかけて頑張ってみよう、そんな気にさせられた。


漢字講座三 「馬鹿」と言うのは馬と鹿と書く! 

神楽坂のある鮨屋での話。

体調が悪く、風邪気味のオレは
ビールの一杯も飲まずに鮨を食べていた。
鮨屋で酒を飲まないのも無粋なら、
体調不良で味覚もおぼつかないのに
職人の「仕事」を見極めようなどと、いうのもおこがましい。

しかし、ここにはオレよりさらに無粋極まりない、
オッサンがいた。40代後半と思われる、オッサン。
かなりの酩酊状態だった。
部下と思しき若サラリーマン二人と一緒だ。

「うまいね、このコハダ。いゃあ、いい仕事してるよ、大将!」
親方は、複雑な笑顔を浮かべながら、大根を桂むきしている。
「じゃあ、今度は、穴子ちょうだい」

そこで、親方は甘いタレのついたものと
岩塩をまぶしたものをそれぞれ一カンずつ、差し出した。

するとオッサンは「オッ、うまそうだな」と言うや否や、
醤油にドボッと浸し、口に放った。

すると、今まで黙っていた大将が、丁寧に言った。
「これはそのまま召し上がった方がさっぱりいただけますよ」
口をモゴモゴさせていたオッサン、瞬時に表情が変わる。
「好きなんだよ!」

そう言うと、さらに岩塩をまぶしたもう一カンにも
(気のせいか、さっきよりも)醤油を念入りにつけて食べた。

「あぁ、醤油はうまい!」

してやったりの表情で狭い店内に響き渡るように言い放つ。

大将は何も言わずに大根をむいていた。
このオッサン、醤油を食べにきたのか?
「醤油はうまい!」って、鮨屋で言う言葉か?

オレは一人悦に入っているオッサンを横目に、
肩身の狭い思いをしているであろう、
部下の若者二人に心の中で言った。
「恥ずかしい上司を持つと大変だね……」


漢字講座四 米偏に9、10と書いて「粋」と読む!

銀座の昼下がり、午後一時を回ったところ。
先ほどまで大挙して鮨をつまんでいたサラリーマンが
一瞬にして消え、静寂が店内を包んでいた。
オレは1人カウンターでつまむ。ビールを小ビンでやりながら。

客がいなくなったので親方と話しやすい雰囲気となった。
客席の端で修行中の若者が姿勢よく立っている。
「いつから、このお店を?」
60代半ばと思われる親方は、
「まだ10年ですよ」
と真剣な面持ちで言った。
決して愛想はよくないが、不快な印象はない。

「その前は?」
「同じ銀座で修業してました」
「修業は何年くらい?」
「修業時代のことは忘れました」
「忘れた?」
「えぇ……」

次の言葉を待ったが、親方の話はそれで終わった。
ちょっと矢継ぎ早に質問してしまったかな、
と反省しつつ、小ビンのおかわりをもらう。

若者が冷えたビールを注いでくれる。
右手甲に根性焼きの跡がある。

「何年修業すると一人前になるんですか?」
「人それぞれですよ」
「そうですよね」
「…………」

しばしの沈黙。これ以上、質問はやめたほうがいいかもしれない。

すると、どこにいたのか女将が、
静かにお吸い物を出してくれる。
口の中がさっぱりしたところで、会計をすます。

ふくよかな女将が笑顔で言う。
「また、いらして下さいね。親方も決して怖い人じゃないんで……」
オレはカウンターの親方を見る。
すると親方は、深々と頭を下げて、静かに言った。

「まだ私も修行中なんです」
あぁ、生涯学習! 
神楽坂の親方の話を思い出した。
「適当にやれば適当な味しかしなくて、
適当な客しかこなくなる。だから毎日が勝負なんです」

あぁ、生涯修業!
道の長さ、険しさをますます痛感。粋の答えはまだまだ先だ!



今月のひと言
元気があれば、何でもできる!

一ヶ月以上風邪に苦しんでいる。治りかけてはぶり返し、の繰り返しだ。鼻水、頭痛、悪寒、そして中耳炎に歯痛。弱っているときは何をやってもダメだ。猪木が言っていた。「元気があれば何でもできる!」、ホントその通りだ。あぁ、元気になりたい。酒もうまくない。まずいし、飲むとさらに体調も悪くなるので酒を控えていたら、9日間一滴も飲んでない。酒をやめたら、自分が異常につまらない人間になった気がした。あぁ、飲みたい!


雪之丞華之介●高校生以来か? 9日連続断酒なんて。酒を断っても元気にならないんだったら、ひと思いにしこたま飲んじまうか、というテンプテーションと闘う30才。







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この記事へのコメント

1. Posted by HATSUTA   2007年07月04日 12:04
懐かしいね、粋。九段下の寿司政は学生時代にバイトをしていたところですよ。山口瞳が常連で、新子を食べにきていたのを思い出しましたよ。
2. Posted by SHO   2007年07月05日 14:54
新子、大好きだよ。
今年は食べなかったなぁ……。

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PROFILE
SHOICHI HASEGAWA 
1970年5月13日・東京生まれ。
ノンフィクション・ライター
日々、旅をして、人に出会い、
話を聞き、それを文章にする。
そんな日々の雑感です。
長文になると思います。

ちなみに、上の写真は、
モハメド・アリ@北朝鮮です!
(07年3月1日付参照のこと・笑)
shozf5@gmail.com


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