2007年04月28日

ひとり大空に、叫ぶ 〜須藤元気の3年間〜


ここ数日の間、久しぶりに須藤元気氏の取材をした。
振り返れば、ここ4年の間、食事をしながらだったり、
練習の合間だったり、ときには旅先だったり、
断続的に彼に話を聞き続けている。

人は日々、成長する。
彼の中で、変わったこともあれば、
まったく変わらないものもある。

ここ数日で聞いた彼の話と、以下に掲載する
2年半ほど前の文章。
まったく揺るぎない彼の中の軸と微妙な変化。

僕自身、そんなものを感じながら、
この文章を読み返してみた。


04.09


ひとり大空に、叫ぶ
〜須藤元気の3年間〜

TEXT:SHOICHI HASEGAWA

「引退(やめ)なくちゃいけないかもな……」
自宅で本を読んでいるとき、
友だちからのメールで、初めて「それ」を知った。

2001.9.11――。

試合を一週間後に控えた須藤元気は、次にこう思った。
「ニューヨークに行かなければ……」
ニューヨークを未曾有のパニックに陥れた
同時多発テロから、3年の月日が経とうとしている。

               ※

「憎しみが憎しみを生む世界を終わらせたいという、
自分の中の潜在意識が目覚めたんですかね。
決して、そんな世界なんか望んではいないのに、
ひょっとしたら自分のやっている格闘技というものが、
戦いを助長しているんじゃないのかな、そう思えたんです。
だから自分は引退するべきじゃないのかなって。

でも、今からから思えば、それは辛い格闘技から逃げ出すための
体のいい言い訳だったのかもしれませんね。
格闘家が戦いの無意味さをアピールすることこそ、
意味があるんだと今なら思えるし、格闘技というものは、
人間の闘争本能を解消するためのスポーツなんだって、
今では、正当化できるから……」

               ※

この3年間で、格闘技を取り巻く事情は大きく変った。
立ち技系のブームを築いてきた【K−1】に加え、
寝技も含めた総合格闘技【PRIDE】も大人気を博している。
03年の大晦日には、民放3局で、
別々の大会が生中継されるという過熱ぶりだ。

こうした「格闘技ブーム」の中で、
当然、須藤元気の状況も大きく変わった。
その派手なパフォーマンスと卓越した試合運びで、
会場を盛り上げる男として、
今やビックマッチには欠かせない格闘家の一人となった。

03年の大晦日には、体重差110kgのバター・ビーンを
理詰めで撃破し、年が明けた04年には、
4月にアメリカ・ラスベガスでアウェイでの戦いに
動じることなく勝利を収め、5月には、
格闘技ブームの牽引車でもあった、
あのグレイシー一族のホイラー・グレイシーを
完膚なきまでに叩き潰した。

格闘家として、脂が乗っている時期に、今、元気はある。

               ※

「自分でも成長したなと思いますね。
すべてにおいて淡々とこなせるようになってきました。
勝っても、『ワーッ』って喜べなくなったし、
興奮もしなくなりました。前回のホイラー戦も、
『あぁ、勝った。あっ、目の前にホイス(・グレイシー)がいる。
じゃぁ、対戦表明をしよう』って冷静に考えていましたからね。

何で、そうなったか? 

そうですね、闘いって儚いものなんですよね。
勝ち負けってそのときだけのものなんですよ。
格闘家だっていくら一世を風靡したとしても、
一年間も試合をしないとすぐに忘れ去られてしまいますよ。
『平家物語』みたいですよね。
驕れるものは久しからず、盛者必衰の理ですよね……」

               ※

これまでに何度か紹介したが、
須藤元気は「自分はメッセンジャーとして生まれてきた」と話す。
世間の人に伝えたいものがあるから生まれてきた。
その伝えたい思いこそが『WE ARE ALL ONE』だ。

しかし、同時多発テロを端緒に、アメリカはイラクへ軍隊を派遣した。
さらに、それに追随するかのごとく日本からも自衛隊が派兵された。
この三年間の間に、争いが争いを生み、
多くの人が血を流し、命を落とし続けている。
世の中の状況はちっとも、『WE ARE ALL ONE』ではない。

               ※

「自分の無力さはもちろん感じます。だけど、だからと言って、
今すぐに格闘家を引退しようとは思わないです。
『WE ARE ALL ONE』という考えも、
何としてでも強く訴えていこうとも思っていないです。
【反戦】を強く言えば言うほど、逆に戦争をやりたがる人が
出てくるんじゃないかなという気がするんです。

男がいて女が存在するように、
右があって初めて左が存在するように、
【反対】を強く訴えれば、相手もまた力をつける。
ただ否定するだけだと当然相手も反発しますよね。
『そういう考え方もありますね』ってひと言、言えば、
みんな柔らかくなれると思うんですけどね」

               ※

無力かもしれない。それでも言い続けることしかできないし、
継続することで意味を持つこともきっとある。
だからこそ、須藤元気は
『WE ARE ALL ONE』を唱え続ける。
格闘家としての絶頂期を迎えつつある今、
メッセンジャーとしての歩みを
本格的に始める時期にさしかかっている。

取材の間、ちょうど公開を控えていた、
反ブッシュ映画とも言うべき、
マイケル・ムーア監督の『華氏911』に話が及んだ。

『WE ARE ALL ONE』を信奉する元気は、
ブッシュでさえも世界のために必要な存在であると語った。

               ※

「マイケル・ムーアのやり方は自分も嫌いじゃないけど、
ああいう形だと真の革命はならないんじゃないかな……

もしかしたら、ブッシュさんだって、
今のシステムを壊すための悪役として
出てきてくれたのかもしれないし……。

彼は彼で悪役としてやっていて、
でも、自分では悪だとは思っていなくて、
それを支持する人が半分ぐらいいて……。

問題はそこで人類がどんな選択をするかですよね。
ヒトラーの時は誰も止められなかった。
だからこそ、今、人類はどんな選択をするかが
問われているように思えて仕方がないんです。

でも、『WE ARE ALL ONE』という
メッセージがあれば何かが変わるんじゃないか。
いい方向に向かせることが
僕の使命なんだと思っています」

               ※

それにしても、と改めて思う。
これが今、絶頂期を迎えている格闘家の言葉なのか、と。

その言葉は【最強】を希求し、
【勝利】を求める者のそれではなく、
【平和】を希求し、【一体】を求める者の物言いだった。

それは、まるで思想家であり、平和主義者の使う言葉だ。

取材の三日前にバイクを盗まれたという須藤元気。
しかし、彼は平然と、こう答えた。

「それも必然なんでしょうね。別に動揺はしていませんよ」

これから元気はどこに行くのか? 
その崇高な理想は人々の胸にどう届くのか? 
人類は平和を損なうことはないのか?

               ※

「今は、あのとき辞めないでよかった、
とすら思わないですね。
世の中はすべて必然の流れだと思っているんで、
あのときはやはり、辞めない流れだったんだと思います。

今はただ、『WE ARE ALL ONE』って
大空に向かって叫んでいる状態です。
そうするとチューニングが合った人が
次第に集まってくると思うんです。

一気にみんなにこの思いを広めるんじゃなく、
少しずつ知ってもらう、そのプロセスをも
楽しみたいと今は思っているんです」




shozf5 at 10:04│Comments(0)TrackBack(0) 懐かしき文章たち…… 

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PROFILE
SHOICHI HASEGAWA 
1970年5月13日・東京生まれ。
ノンフィクション・ライター
日々、旅をして、人に出会い、
話を聞き、それを文章にする。
そんな日々の雑感です。
長文になると思います。

ちなみに、上の写真は、
モハメド・アリ@北朝鮮です!
(07年3月1日付参照のこと・笑)
shozf5@gmail.com


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