2007年04月14日

REBORN 〜日本のデレク・ハインド〜


「交通事故で右目を失ったサーファーがいる」と聞いた。
茅ヶ崎の静かでオシャレなカフェで本人に会った。
壮絶な事故の話と、そこから海に戻るまでの力強い話。
しばし、言葉を失いながら、僕は黙って聞いていた。

おだやかな天気、そして静かな波の音。
あの光景は、今でもとても印象に残っている。



04.09

REBORN
〜日本のデレク・ハインド〜

TEXT:SHOICHI HASEGAWA

記憶がなかった。
02年2月26日、午前5時45分から
およそ三日間、意識がなかった。

念願だった古着ショップ開店まで
あと数ヶ月という時期、
自転車に乗っていたTAKAはトラックに衝突した。
頭蓋骨折。眼球破裂。脳挫傷。
事故の代償はあまりにも大きかった。
TAKAは右目の視力と右耳の聴力を失った。

事故から三日後、意識を取り戻した。
けれども状況はうまくつかめなかった。
ただ、起き上がろうとしても
まったく言うことを利かない体に
なっていることはすぐにわかった。

「もうサーフィンも終わったな……」

サーフィンを中心にして生きてきた自分から
サーフィンを取ったら何が残るというのだろう。
生きる意味って何だろう。

サーファー仲間が次々と見舞いに来てくれた。
TAKAに元気と勇気を与えようと、
片脚のサーファーの話、
隻腕のサーファーの話をみんながしてくれた。

そして、TAKAはその男の名を初めて聞いた。
DEREK HYND。
かつてのトッププロサーファーにして、
サーフボードが目につき刺さるという事故で
片目を失った伝説の男である。

        ※

TAKAの入院生活は三ヶ月近く続いた。
病棟の九階から飛び降りようか
とも思ったこともある。

しかし、そのたびに呪文のように
デレクの名をつぶやき続けた。

平衡感覚をつかさどる耳の損傷のため、
また、片目による遠近感の違和のため、
リハビリのために病院の廊下を歩いていても
右肩がすぐに壁にぶつかってしまう。

気持ちだけは萎えないように
自らを奮い立たせていた。

しかし、思うようにいかない現実の前に、
途方もない無力感を感じることもしばしばだった。

そのたびに、知人がくれた
デレク・ハインドのビデオを見直した。
ビデオの中のデレクのライドは美しかった。
人はここまで強く、美しくなれるのか。

そうして、三ヵ月後、5月になって
ようやくTAKAは退院した。

しかし、退院はしてみたものの、
鬱屈とした思いが晴れることはなかった。

オープン間近だった「ビーチサイドの古着屋」という
コンセプトのショップも一時棚上げされていた。
海に入ることもできない。

自宅リハビリを続けていたある日、
TAKAは事故以来、まったく手をつけずにいた
パソコンを久しぶりに立ち上げた。

メールチェックをしてみると、そのメールがあった。
差出人はデレク・ハインド、その人だった。

        ※

【笑える】

メールの書き出しには、そうあった。

【オレのときとまったく同じだ。
すぐに君は海に戻るだろう。
でも、あまりのふがいなさに、
かなり落ち込むだろう……】

その文章は、海に出たくて、出たくて
しょうがなかったTAKAの琴線に触れた。
文章はなおも続く。

【……でも、心配するな。
人間はうまくできている。
目を一つ失っても、
もう一つの目がものすごく発達する。
繰り返しやっているうちに、
すぐに新しい感覚になじんでくる。
オレは半年後にはコンテストに復帰した。
お前も大丈夫だよ。
楽しんでサーフィンを続けてみなよ……】

かつて、ショップのバイヤー時代に知り合った
カリフォルニアのシェイパーが事故を聞きつけ、
デレクにTAKAのメールアドレスを
知らせたのだということは後で知った。

入院中、退院後の心の支えだった
デレクからの激励のメール。
それは改めて、TAKAに生きる力を与えた。

そして、8月。
事故後、初めてTAKAは海に入った。

        ※

曇り時々晴れの夏の茅ヶ崎。
胸ぐらいの優しい波に悪戦苦闘をしながら、
TAKAは懐かしい感触に身をゆだねていた。
平日の海はビジターもいなく、
顔なじみのローカルたちがいるだけだった。

デレクの言う通りだった。
今まで乗れていた何でもない波にとまどった。
でも、デレクの言うように「ふがいなさ」は感じなかった。

ただただ、塩水の感触がたまらなく懐かしく優しかった。
気持ちよさとうれしさとで涙が出てきた。
サングラスをしていてよかった、とTAKAは思った。

沖では、顔なじみのローカルたちが
次々と声をかけてくれた。

「お帰り!」

波には全然乗れなかったけれど、
そんなことはどうでもいいことだった。

高校卒業後、単身サンディエゴに渡り、
そこで初めてサーフィンに出会った。
西海岸のまばゆい陽光の中で、颯爽と
波を乗りこなす金髪の兄ちゃんたちにすぐに魅了された。

以来、海から離れたことはなかった。
そして、事故というアクシデントを乗り越え、
再び海に帰ってきた。それだけでよかった。
仲間たちの歓迎ぶりがただただうれしかった。

TAKAは生まれ変わって帰ってきた。

        ※

その後、念願かなって03年5月に茅ヶ崎に
『STONE FREE』を開店した。
古着に交じって、店の奥には
サーフボードが並んでいる。

当初、考えていた通り
「ビーチサイドの古着屋」という店構えになった。

海にも出続けている。
事故前を100だとしたら、今はまだ70だけれども、
事故直後は10程度だったことを考えれば
順調な回復を見せている。

「新しい体になってからの波乗りは
まだ確立されていない」というTAKAだが、
6・1、もしくは2だったボードを若干長くして、
6フィート8インチに変えてみた。
試行錯誤はまだまだ続いている。

「日本でいちばん尊敬される片目サーファーになりたい」

TAKAは笑う。
でも、片目だから偉いのだとか、
すごいのだとかは言われたくない。

ただ、あるがままの体であるがままに
波に乗れればいいのだと考えている。
TAKAがデレク・ハインドに勇気づけられたように、
今度はTAKAの存在によって
元気づけられる少年もいることだろう。

そのためにも今日もTAKAは海に出る。

『STONE FREE』の店先の
ボードが潮風に揺れている。
そこには、
「まことに勝手ながら、波があるので遊んでます」
と書かれていた。




shozf5 at 09:19│Comments(10)TrackBack(0) 懐かしき文章たち…… 

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この記事へのコメント

1. Posted by AYAKA IKEZAWA   2010年01月25日 23:10
初めまして、
デレクハインドを探したらブログあったので覗かせてもらいました。
先日旦那様がサーフィン中サーフボードのテールが目に強打し、右目を眼窩底破裂骨折&顔面骨折しました。
いまだに目蓋が開きません。
明日少し大掛かりな手術です。

ブログを読み元気頂ました。
きっと彼も目が見えなくても続けていくと思います。
彼にも久々の海を感じる日が少しでも早く来ますように願わずにいれません。

今度古着屋さん覗きに行って見ます♪
ありがとうございました☆


2. Posted by SHO   2010年01月26日 07:18
AYAKA IKEZAWAさま

はじめまして。
コメント、どうもありがとうございました。
ご主人が大変なケガをされたそうですが、
拙文が少しでもお力になれたのなら何よりです。
本日、手術とのことですが、無事に成功するようにお祈りしています。
3. Posted by taka   2010年02月20日 22:39
長谷川さん、ご無沙汰してます。
stone freeのtakaです。その節はお世話になりました。懐かしいです。
妻がたまたま、このブログにたどり着きました。
久しぶりにこの記事を読み、自分の事ながら感動して涙してしまいました(笑)。何度読んでも本当に文章がお上手だと思います。長谷川さんにこの記事を書いていただいてから、早いものでもうすぐ丸7年です。という事は、stone freeも今年のゴールデンウィークで7周年。たくさんの人に支えられながら、決して楽な生活ではありませんが、サーフィンを中心とした「good enough」な生活が出来ています。ぜひ、様子を見にお近くに来た際は、立ち寄ってください。
ikezawaさん。はじめまして。手術はいかがだったでしょうか?無事成功している事をお祈りします。僕がデレクに希望を見いだしたように、僕のような軽症で済んだものが、誰かの励みの一端にでもなれるのであれば、本当に光栄です。
何か僕に出来る事があるようでしたら、ぜひご連絡ください。stonefree5588@aol.com
4. Posted by SHO   2010年02月21日 08:33
takaさん
ごぶさたしています!お元気ですか?
あの取材から、もう7年ですか!
お店も順調そうでなによりです!

あれは僕がフリーになった直後の取材で、
とても印象に残っています。

ものすごい壮絶な話を淡々と話すtakaさんの姿と、
あの日の穏やかな陽光が印象的でした。

あれから7年。
僕もフリーとして何とか自分の両腕だけで生きています。
お互い、「good enough」で、これからも生きていきましょう!
コメント、ホントにうれしかったです!

読んでくれた人に何かを感じてもらい、
話を聞いた人にも喜んでもらえる、
そんな文章を書いていきたいと思っています。
これからもよろしくです!

5. Posted by Rusty   2012年07月13日 01:27
Stone freeの大ファンの茅ヶ崎のものです。
なんかこのところStone freeのホームページが繋がらないので、
色々検索していてこちらに辿り着きました。

Takaさんは本当にジェントルで素敵な方で、
私はお店も勿論なんですが、
同時にTakaさんのファンなのかも知れません。
お店に伺っているうちに
なんとなく感じていたんですが、
こういうことだったんですね・・・
読ませて頂いているうちに
やはり涙が出てきてしまいました。

なんかありきたりな科白みたいで失礼かも知れませんが、
Takaさんは素晴らしい方です。
私もあちこち身体を痛めたりして、
今もかなりの不調の日々なんですが、
そのせいもあるのかどうか
ちょっとしたことでくよくよしたり
落ち込んだりしてる自分が恥ずかしいです。
こちらにお邪魔できたお陰で
Takaさんがますます好きになりました!
6. Posted by maicheappobia   2013年11月26日 03:28
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9. Posted by meet   2017年01月17日 03:16
はじめまして、meetともうします。
日々、片目失明のサーファー検索でこちらにたどり着きました。
stone freeさん、自宅から近くいつも海に行くとき通っていて、気になっていました。
そして、自分も昨年9月末に右目を失明しました。
自転車の単独事故で、頭蓋骨、右目眼底、右ほほ、右肩甲骨を骨折し一か月の入院生活から、今は通常の生活をしています。
通常といっても、海にはまだ入っていないし、一般生活での不自由さをどんどん感じているところです。
とにかく、普通に、明るく、元気にと過ごしてきましたが、、、さすがに、一人になるとついつい落ち込み、時には涙が溢れてきてしまうこともありました。
デレクハインドさんの事はしっていましが、こんなにも近くにもっと辛い経験をしたにもかかわらず、力強く人生を歩んでいる方がいるとは!!!
とても励みになるし、海に戻るのが楽しみになりました!
とても近くなので、近いうちにお店に行ってみようと思います。
最後になりましたが、このような記事をご提供頂き、本当に感謝いたします。
ありがとうございます!
10. Posted by 長谷川晶一   2017年01月26日 18:46
ご連絡が遅れてすみません。メッセージ、拝読しました。
10年以上も前に書いた文章が、こうして改めて読んでいただけることに喜びを感じています。こちらこそ、ご連絡いただきどうもありがとうございました。いろいろと大変なことも多いと思いますが、海に戻る日を期待しています。どうもありがとうございました。

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PROFILE
SHOICHI HASEGAWA 
1970年5月13日・東京生まれ。
ノンフィクション・ライター
日々、旅をして、人に出会い、
話を聞き、それを文章にする。
そんな日々の雑感です。
長文になると思います。

ちなみに、上の写真は、
モハメド・アリ@北朝鮮です!
(07年3月1日付参照のこと・笑)
shozf5@gmail.com


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